『汎宇宙的とされる常識によれば、食えるものがあれば食う、それが生物だ。
食えるのに食わないのは理性のある知的生命だけである。
施工者の理性が信じられた。』
小川一水氏著 第六大陸2巻より引用
さて、今月のSFノルマは小川一水。先月読んだ1巻の続きが気になって仕方なく、続けて読んでしまいいました。
小川先生の作品の感想を書くとき、つい引用をしてしまいたくなってしまいます。それぐらいに素敵な言葉にあふれている、良い本でした。
総額1千5百億円の予算枠で、民間企業により月面上に商業結婚式場『第六大陸』を建設するという未曽有の建設事業は、この2巻より後半戦に入ります。
順風満帆に見えた1巻の展開から一転、とある不幸な事故、悲劇により、事業は一気に先行きに暗雲が立ち込めはじめます。
プロジェクトのキーマンが軌道上でデブリ衝突による事故死を遂げ、世論は一気に批判ムード、バッシングへ。
中心人物である桃園寺妙が、夢のような『第六大陸』推進にまい進する本当の動機、薄暗い其れが明らかとなり、スポンサーである桃園寺グループが敵に回るという逆風。
それらこれまでとは全く違う障壁を相手に青息吐息で、それでもプロジェクトは進んでいきます。
物語の中心人物に妙と走也を据えてはいますが、群像劇としても描かれるこの物語は、本当に多くの、様々な人が登場し、それぞれに手を伸ばし、あがき、可能性を広げていきます。
その展開のバランス感覚たるや。
桃園寺の父と娘は最も身近な隔意に苦しみ、妙と走也という二人の恋人の間にももどかしい溝があり、あるものは予算と、あるものは寄る年波と。そしてあるものは自らの技術が生み出す未来を見つめながら、軌道上に散りました。
これら人と人との心の距離や葛藤や連携や、信頼関係やら新たに芽生える思慕やらの組みあがる様を魅せられた後に、唐突に読者の目の前に提示される、星の桟橋の施工者という地球外の何者か。
あるものは出会い、ある者は憎しみ合い、あるものは、この宇宙で出会ってすらいない。
ですが、これは、まぎれもなく、彼ら彼女らの、絆の物語である。
僕はそう読み取りました。
まあ実際そんな一言で表現できる安い物語ではありません。過酷な地球外環境への冷徹な現実や計算、資本や予算という現実的で身近な壁、それらを背景に織りなす様々な技術モデルの提示など、実によく考えられた近未来世界を描いている、まごうことなきSF作品であります。
それらの中で最も強く心に響いたのは、結局ヒトってーのは絆の生き物なのだなと、そういう感想でした。
まあ私は人一倍さみしさに耐えられない人間ですので、そう感じたのかもしれませんが。
読書感としては、物語は割と淡々と進んでいくのですが、巧妙にこちらの興味を掻き立てるストーリーテリングと構成が、いつの間にか手に汗握って次のページをめくっている感じで、一気に読みたくなる本です。
うーん。
面白かった。
素晴らしい読書でした。お勧めでございます。
読み終えた後、最初に戻って、是非カラー口絵をご覧ください。
そこで何か感じるものを覚えたならば、あなたは絆を感じることのできる、まごうことなき『人間』です。
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